東京弁は感染るんです




ワンポイント関西弁

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第30回  【えずく】

 
辞書には
『〔自カ四〕
吐き気をもよおす。おうとする。へどを吐く。*体源鈔‐四「むせてえつきまどひけるほどに」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

要するに「おぇ〜っ」となることです。
えずくとか、えずきそうとか言いますが、過去形でえずいたとは言いません。

【例】
きしょくわるいなぁ、そんなえずきそうになるような話すんなよ。

関西のほか四国、中国、九州、東北など広い地域で使われるそうですが、関東では通じません。
私は「えずく」が共通語でないとは思ってもいませんでした。




第29回  【およそ】

 
辞書には
『T 「おおよそ」の変化)
 1 おおまかなところ。だいたいのところ。あらまし。ほぼ。ほとんど。「およその話(見当)」「長さおよそ三センチ」*平家‐一一「凡(をよそ)は九国の惣追捕使(そうづゐぶし)にもなされ」
 2 (形動)いいかげんであるさま。おろそかであるさま。ぞんざい。*虎明本狂言・二千石「いひや、かやうに大事のうたひを、およそにしてはかなふまじひ」
 3 (形動)知能が不完全であること。あほう。痴呆(ちほう)。*伎・一心二河白道‐一「殿様はおよそな程に、そちが娘と思うて守り育て」
U〔副〕
 1 話を切り出すときのことばとして用いる。総じて。いったい。そもそも。*高野本平家‐三「凡(ヲヨソ)は此おとど文章うるわしうして」
 2 打消の語または否定的な内容をもつ語を伴って、強めていうのに用いる。まったく。まずもって。「およそ手のかからない子だ」「およそくだらない話ばかりする」*滑・浮世床‐初「およそ傍で見て居てきの毒なのは瀛(えい)公だぜ」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

関西弁では「そ」を高く発音すると(およそ_ _ ̄ )大まかなとか、だいたいと言う意味になり、「お」を高く発音して(およそ ̄―_ )と言うと、いいかげんとか、万事に不注意なと言う意味になります。

【例】
そんなおよそなことしたらあかんがな。

私はおっちょこちょいなところがあって、子どものころは(今でも)物をよく無くしたりしました。
そういうときには 「およそなことしとーから、物なくすねん」 とよく叱られました。
ここ何十年も「およそ」という言葉を聞いていませんが、関西の言葉として無くなりつつある言葉なのかどうか、関東在住の私にはよくわかりませんが、私の「およそ」な性格は変わっていません。




第28回  【すかたん】

 
辞書には
『(「すか」は「すかす(透)」の「すか」か)あてがはずれること。だまされること。また、見当違いなことをした人をののしっていう語。まぬけ。すこたん。すか。*浄・双生隅田川‐四「此軍介をあづまへやり、ほっかりすかたんさせんとな」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』 と載っています。

アクセントは「スカタン」の「タ」に来ます。「スカタン」の「〜タン」は「アゴタン」(顎)、「デボチン」(おでこ)の「〜タン」や「〜チン」と同様に特に意味の無い接尾語です。

【例】
何スカタンばっかりやってんねん!

くじ引きなどてはずれを引くことを「スカ」といいます。私はこの言葉は共通語だと思っていましたが、どうもそうではなく近畿地方を中心に使われる言葉のようです。
音のしない屁のことを「スカ屁」、頼りなく存在感の無い人のことを「スカみたいなやっちゃ」と言います。




第27回  【いじましい】

 
辞書には
『〔形口〕
1 けちくさい。せせこましい。意地きたない。*随・皇都午睡‐三「上り湯は夕方ならではなくいぢましく思わる」
2 じれったい。歯がゆい。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』 と載っています。

「いじましい」という言葉は「いじきたない+あさましい」から出来た言葉だという説があります。

【例】
いじましいやっちゃなぁ、おまえというヤツは。

この「いじましい」という言葉、最近急速に使われなくなってきているそうです。
かわりによく使われる言葉に「セコイ」があります。 大阪ことば事典(牧村史陽編 講談社学術文庫)によれば『「セコイ」は、醜悪、粗悪など、すべて悪い意味に使う。芸能人の隠語であったがテレビなどの影響で一般化した。』と書かれています。
「いじましい」と意味は近いのですが、やはり「セコイ」で置きかえることは出来ません。




第26回  【せえだい】

 
国語大辞典(新装版 小学館 1988)には載っていませんでした。
精々とか賢明に努力してとかいう意味です。
「せえだい」の「だ」にアクセントが来ます。

【例】
セェダイおあがり。(うんと召しあがれ。)
セェダイつことくれやす。(精々使ってください。)
(例文は大阪ことば事典 牧村史陽編 講談社学術文庫より)

この「せえだい」という言葉、精出しての略だそうです。
若い人はあまり使わない言葉かも知れません。
「せえだいやってくれよ」と言われると「賢明に努力してやってくれよ」という感じよりも、「勝手にやれば」というような皮肉な言い回しに聞こえることもあります。




第25回  【ええ】

 
辞書には
『〔感動〕
1 驚き、悲しみ、くやしさ、喜びなどの感動を表わすことば。ああ。*虎寛本狂言・河原太郎「ヱヱ、腹立や腹立や」
2 相手に問いかけたり、問い返したりするときに発することば。え。「ええ、そうでしたか」
3 肯定、承諾の気持を表わすことば。⇔いいえ。「ええ、その通りです」
4 次のことばがすぐ出ない時や、言いにくくてためらう時などに発することば。「今日は、ええ、…金曜日ですね」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』 と載っていますが、ここで言いたい「ええ」は「好い」の意味の「ええ」です。
語尾を上げて発音します。

この形容詞はおもしろい活用をします。
(連用形)ヨォいわんわ。
(終止形)それがエェ
(連体形)エェべべ着てはる
(仮定形)ヨカッたらあげまっさ

【例】
ブッシュもフセインも、ほんまエェかげんにせぇよ。

この「ええ」という言葉は日本語本来の格で今の共通語の「よい」はそれよりも新しく、さらにこれが近代の「いい」にまで発展していったそうです。
(大阪ことば事典 牧村史陽編 講談社学術文庫より)




第24回  【えらいこっちゃ】

 
国語大辞典(新装版 小学館 1988)には載っていませんでした。
えらいことだ、大変なことだ、という意味です。
2003年3月20日、ついに戦争が始まってしまいました。
米国に追随して戦争を支持する首相をテレビで見ていると、腹立たしさを通り越して情けなくなってきます。 本当にえらいことです。

【例】
「えらいこっちゃ、今日ごみの日やったわ。」

関西人は気軽にこの「えらいこっちゃ」を使います。
ごみの日を忘れたぐらいでも「えらいこっちゃ」と言います。 確かにごみが溢れると大変ですが、この「えらいこっちゃ」は東京人がよく使う「しまった」にぐらい相当するようです。
「しまった」に相当する関西弁は「しもた」ですから、「えらいこっちゃ、今日ごみの日やったわ。」の替りに「しもた、今日ごみの日やったわ。」と言っても意味はほとんど同じです。




第23回  【おうじょう】

 
辞書には
『仏語。
1 現世を去って他の仏の浄土に生まれること。特に、極楽浄土に往って蓮華の中に生まれ変わること。*霊異記‐上・二三「父母に孝養すれば、浄土に往生す」
2 現世を去って弥勒菩薩の兜率天(とそつてん)や観世音菩薩の補陀落(ふだらく)世界などに生まれること。
3 現世で弥陀の願力によって真実不退の信心を得ること。
4 現世で弥陀の浄土に生まれることが約束される即身成仏のこと。
5 この世を去ること。死ぬこと。*仮・竹斎‐上「誰とは知らず、夜半の比、若き侍わうじゃうとて」
6 すっかりあきらめ、行動をやめること。*滑・膝栗毛‐三「かたりにあったとおもって往生して払ひやせう」
7 どうにもしようがなくなって、困ること。閉口。困却。「悪路で往生した」
8 寝ること。*浄・近頃河原達引‐中「サアおしゅんこちらもここに往生いたそ」
9 無理に押しつけられて、いやいや承知すること。「無理往生」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』 と載っています。

毎度のことですが、この辞書は簡単なことを余計に難しく説明しているようです。
仏語といっても、もちろんフランス語のことではありません。
この言葉も関西の言葉というわけではないのでしょうが、東京ではめったに使われません。
関西で言う所の往生するとは、行き詰まってどうにもならないという意味ですが、閉口するとか困るというほどの軽い意味でも使われます。

【例】
「パソコンが動かんようになって、往生してんねん」

パソコンが動かなくなって往生しているのは私です。(2003年3月9日今日の戯言
「お〜じょうしまっせ」「無茶言うたらいかんわ〜」で有名なのは漫才の「大木こだま・ひびき」です。 これぞ大阪の漫才、という感じがするコンビですが、東京のテレビではあまり見ることができません。残念です。





第22回  【けったくそわるい】

 
辞書には
『(形動)⇒けたいくそ(卦体糞)「けったくそが悪い」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。
けたいくそを見ると
『(形動)(「けたい(卦体)U」を強めていう語)いまいましいこと。また、そのさま。けったくそ。
晢が悪(わる)い 「けたい(卦体)が悪い」を強めていう語。*浄・特丸長者金笄剣‐二「あたいまいましい、何の事じゃい、けたいくそのわるい」
判をこめていう語。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』 と載っています。

卦体といわれても何のことかわかりません。
仕方がないので調べました。卦体とは易の卦に現れた算木の形象で、転じて縁起とか験(げん)の意味を表し、糞は腹立たしい気持ちを表す接尾語だそうです。
要するに、不愉快なとか癪にさわるとか縁起でもないという意味です。

【例】
「ほんまにけったくそわるいやっちゃなぁ。あいつは」

今まで何十年と生きてきましたが、今だかつて「けたいくそ」などと言う言葉は聞いたこともありません。
辞書を引いて余計に訳がわからなくなるとは、なんとも「けったくそわるい」辞書です。





第21回  【きょうび】

 
辞書には
『きょうこのごろ。この節。当今。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
『過去と比較しながら、現在の状況を多少の批判をこめていう語。
類語例解辞典 小学館 1994』
と載っています。漢字で書くと『今日日』です。

この言葉も関西限定というわけではなさそうです。私が神戸にいたときには良く聞く言葉でしたが、東京に出てきてからは聞いた記憶がありませんから、やはり関西方面で使われる言葉だと思います。

【例】
「きょうびそんなこと言うヤツおれへんでぇ」

「きょうびの若いもんは・・・」とかよく聞いた言葉です。
嘘か本当か知りませんが、エジプトの遺跡の中にも「近頃の若者は・・・」という若者を批判する言葉が出てくるそうです。
この言葉を言い出すようになると、今まで生きてきた時間よりこれから生きていく時間のほうが短くなってきているという現れではないでしょうか。
最近は「きょうびの年寄りは・・・」と言いたくなるような人が増えているように思いますが。





第20回  【ぬくい】

 
辞書には
『〔形口〕卆ぬく・し〔形ク〕
1 気候や温度が程よく気持がよい。あたたかい。《季・春》*名語記‐三「あたたかなるを、ぬくしといへる」
2 金銭を多く持っている。裕福である。*雑俳・あふむ石「隣へぬくひ冬をみせ」
3 鈍い。ぐずである。愚かである。のろまである。*俳・当流籠抜「談義はぬくひ波よする磯」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

関西限定の言葉というわけではなさそうですが、方言には違いないようです。
気温の場合にも、物の温度の場合にもどちらにも用います。

【例】
「今日はぬくいですねぇ」

我が家の風呂の追い炊きコントローラには「保温」というボタンと「あったか」というボタンがあります。「あったか」ボタンを押すと設定した温度より+2℃高い温度まで追い炊きしてくれます。
「あったか」という言葉はいかにも東京弁らしい響きがしますし、私も「あったか」などという言葉は使いません。
でも、もし「あったか」ではなく「ぬくー」とか表示されていたとすれば、さすがに元関西人の私でもカッコ悪いと感じると思います。





第19回  【さぶいぼ】

 
国語大辞典(新装版 小学館 1988)には載っていません。
共通語でいう「鳥肌」のことです。
鳥肌は「立つ」といいますが、「さぶいぼ」は「立つ」とは言いません。
「さぶいぼ」は「出る」です。

【例】
「あーさぶ。さぶいぼ出るわ。」

寒さや恐怖などの強い刺激で皮膚に鳥肌ができることを「鳥肌が立つ」と言いますが、最近は「感動して鳥肌が立った」というような言い方が流行っています。
先日ラジオで「感動して鳥肌が立つ」というような言い方は誤りであると言っていました。確かに誤った使い方なのでしょうが、私は感動してぞくっとくる様子が伝わってくるようで、聞いていて特に不快感はありません。
なお、「感動してさぶいぼ出たわ」という言い方は聞いたことがありません。





第18回  【ほたえる】

 
辞書には
『〔自ヤ下一〕ほた・ゆ〔自ヤ下二〕(「ほだえる」とも)
1 あまえる。つけあがる。*浄・夏祭浪花鑑‐一「栄曜栄花にほたへ過し」
2 ふざける。たわむれる。じゃれる。*浄・卯月の紅葉‐上「若いなりしてびらしゃらと、あんまりほたへさっしゃるな」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

ふざけて騒ぐというような感じです。
第6回で 【いちびる】という言葉を紹介しましたが、「いちびる」とは若干ニュアンスが違います。
「いちびる」は共通語の「おどける」に近く、「ほたえる」は「子どもがふざけて騒ぐ」という感じです。
小学生ぐらいの子どもが集まるとすぐにふざけて騒ぎ出します。まさしく「ほたえる」という感じです。

【例】
「こんなとこでほたえたらあかんがな」

「ほたえる」という言葉は私が子どものころにはよく聞いた言葉でしたが、最近は全然聞きません。いまでも関西で使われているのかどうか私にはわかりません。





第17回  【しゅむ】

 
辞書には
『〔自マ四〕(「しむ(染)」の変化)
1 ある色に染まる。*雑俳・花笠「しゅみました・けんぼうやの手はぬり杓子」
2 刺激がからだにつよく作用する。また、液体や塩分などの刺激で痛みを覚える。*伎・伊賀越乗掛合羽‐一三「朝嵐が身にしゅんで」
3 物事が佳境に入る。興が増す。陽気でにぎやかになる。*浮・好色万金丹‐三「今宵ほどはなしのしゅんだ事もなければ」
4 陰気になる。しんみりと沈みがちになる。*浄・呼子鳥小栗実記‐中「若い形してそんなしゅんだ事云はぬ物ぢゃ」
5 所帯持ちの苦労が身についたさまになる。所帯じみる。*伎・伊賀越乗掛合羽‐七「これは又しゅんだものを連れて来たぞ」
6 地味なさまになる。*浮・小児養育気質‐四「堅い四角なしゅんだ事がきらひで、生徳の好きは花見遊山」
7 けちくさい感じになる。また、みすぼらしくなる。*洒・秘事真告「あれでやき物がいくつとれて、片身が取ざかな、骨つきを吸物と、あてはめた了簡もしゅんだものなり」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

この辞書、説明が大層なので、よけいにわからなくなります。
私は、「よく味がしみている」というのを関西では「よう味がしゅんでる」というということを言いたかっただけなのです。
「よう味がしゅんでる」の「しゅむ」は上の1から7のどれにも相当しないと思うのですが。

【例】
「この高野豆腐、よぉ味がしゅんで、うまいなぁ」

この高野豆腐という言葉も東京では凍豆腐のほうが普通でしょうか。
高野豆腐は武田信玄が兵糧食として考案したと言われています。





第16回  【ぶたまん】

 
辞書には
『肉まんじゅうの、関西での呼び名。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

辞書には「肉まんじゅう」と書いてありますが、「肉まんじゅう」いう言い方は今だかつて聞いたことがありません。
関西では「肉」というと普通は牛肉のことを指しますから、豚肉の入っている饅頭を「にくまん」と呼ぶことには少々抵抗があります。

【例】
「あそこのぶたまんは、ほんま旨いなぁ」

「中華まん」とも言うようですが、コンビニに行くと「にくまん」に「あんまん」、「ピザまん」「カレーまん」「チーズまん」と色々ありますが、「チーズまん」や「カレーまん」が「中華まん」なのかはなはだ疑問です。
最近は東京でも「豚まん」が通じる様になりました。
「豚まん」と表示してあるコンビニも見かけます。





第15回  【しな】

 
辞書には
『〔接尾〕(「しだ(時)」の変化という説がある)動詞の連用形に付いて、その時、ついでの意を表す。「帰りしな」「寝しな」など。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

何々に際してとか、何々の途中という意味です。
東京に出てきてから「行きしな」とか「帰りしな」という言葉を聞いたことがありませんので、これはたぶん関西弁だと思います。

【例】
「帰りしな、ちょっと寄ってくるわ」

たぶん東京弁では「帰る途中でちょっと寄ってきます」と言うはずですが、どうもピンときません。
正しく「〜しな」という意味を表現するには、「帰る途中でついでにちょっと寄ってきます」と「ついでに」を入れなければなりません。
ただし、「寝しな歯ぁ磨けよ」という場合には、「寝る前には」とか「寝るときには」いう意味だけで、寝る「ついでに」と言う意味はありません。





第14回  【じぶん】

 
辞書には
『〔代名〕1 (反射指示)その人自身。自己。自身。*政談‐一「衣類諸事、皆彼が自分にてすれば世話なし」
2 自称。わたくし。多く、男性が改まったとき用いる。また、旧軍隊で用いた。*咄・初音草噺大鑑‐二「自分はしらしぼり伽羅之進といふものなり」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

なぜ「自分」が関西弁なんだと思われる方もいらっしゃると思いますが、関西では「じぶん」を二人称にも使うのです。
要するに、「あなた」「きみ」「おまえ」という意味で「じぶん」と言うのです。

【例】
「じぶん、何してんのん」

自分自身のことを「私」とは言わず「自分」と言うひともいますし、相手を指すときも「自分」と言うひともいます。
「自分行かへんけど、自分行く?」(私は行かないが、あなたは行きますか?)
文字にすると行くのか行かないのかさっぱりわかりませんが、これでちゃんと通じるのです。
関西人は自分と相手の垣根が低いのかも知れません。





第13回  【じゃまくさい】

 
辞書には
『〔形口〕卆じゃまくさ・し〔形ク〕(「くさい」は接尾語)邪魔に思われる。めんどうくさい。*滑・大わらい臍の西国‐不性者の独りごと「起きた所が晩にまた寝るのがじゃまくさい」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「くさい」は接尾語だそうですが、「くさい」を取って「じゃま」だけにすると違う意味になってしまいます。
「じゃーくさい」とも言います。

【例】
「なんべんもなんべんもじゃまくさいなぁ。一回で言えよ、一回で」

私の母は、「ご面倒ですが」とか「お手数をおかけしますが」言う意味で「えらいおじゃまですけど」という言い方をします。
ということは「じゃまくさい」の「くさい」を取って「じゃま」だけにしても、「めんどう」という意味があるのでしょうか。





第12回  【きしょくわるい】

 
辞書には「気色が悪い」で
『 1 体の調子がわるくて気分がすぐれない。*浄・女殺油地獄‐中「お主一人見えぬはきしょくでも悪いか」
 2 心が晴れず気分がわるい。不愉快だ。気味が悪い。*鳩翁道話‐一「見とむなうて、気色が悪うて、こたへられたものぢゃない」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

気持ちがよいことを「きしょくええ」とも言う人もいます。

【例】
「これ、めっちゃ気色悪いやん」

若い世代では「キショイ」という言い方も増えているそうです。
少なくとも私が関東に出てきた20数年前には「キショイ」という言い方はありませんでした。
関東でも若い世代では「気持ち悪い」と言うより「キモイ」というほうが普通になってきているようです。
そんな気色悪い言い方やめてほしいなぁ。。。(と思ったのは昔のこと。いまでは私もええ歳して「キモ〜」なんて言ってるから気色悪い)





第11回  【おちょくる】

 
辞書には
『〔他ラ五(四)〕からかう。ばかにする。ふざけて、なぶる。関西地方でいう。
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「からかう」と「おちょくる」はすこしニュアンスが違うような気もします。ばかにしながらからかうといったほうが近いかもしれません。

【例】
「おまえ、わしのことおちょくっとんかぁ」

「おちょくる」のほうが相手をばかにしている度合いが強いので、からかわれても怒らないひとがおちょくられると怒り出すということもあり得ます。
ふざけることを「おちょける」とか「お」を取って「ちょける」とかいいます。自動詞と他動詞の関係かもしれませんが、「おちょくる」の「お」を「ちょくる」とは言わないので、別の言葉なのかもしれません。
なお、よくふざけるひとのことを関西弁で「ちょけぇ」といいます。




第10回  【なんぼ】

 
辞書には
『〔副〕(「なんぼう」の変化)
 1 程度の限定しがたいさま、また不明、不定なさまを表す。どれほどか。どの程度か。なんぼう。「お代はなんぼですか」*俳・玉海集‐付句「鶯もなんほ寐ぐらやたづぬらん」
 2 程度がはなはだしくて、限定しがたいさまを表す。ずいぶん。いくらでも。なんぼう。「なんぼでも言ってやる」「なんぼ努力しても合格しない」*浮・好色一代女‐六「なんぼの調謔(たはぶれ)にも身をなれしが」
 3 普通には認められないものが特に認められると許容・譲歩する気持を表し、それでもこの場合には認めるわけにはいかないという判断を導く。いくら(…でも)。なんぼう。「なんぼ親の頼みでもこれだけは駄目だ」*談・教訓万病回春‐一「美酒も醤油徳利に入おいては日ましに味のそこねるごとく、なんぼ漢魏の意味はよくても」
国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

これまた難しい説明ですが、普通「なんぼ?」と言うと、「値段はいくらですか?」ということです。

【例】
「おばちゃん、これなんぼ?」

最近気づいたのですが、私の場合値段が安いとき、例えば八百屋のおっさんに大根の値段を聞くようなときは「これなんぼ?」と聞きますが、少々値段の張る物の値段を聞くとき、例えば電器屋で家電製品を買うようなときは「これいくら?」と聞くような傾向があります。
東京弁の感染が著しい私に限ってのことなのか、あるいは関西人一般にそういう傾向があるのか、不明です。





第9回  【ぎょぉさん】

 
辞書には
『T  〔形動〕
 1 程度、数量のはなはだしいさま。*虎明本狂言・鍋八撥「ぎゃうさんなたかごゑしていふによって」*浮・人倫糸屑‐妾狂「澆山に見事な奥様や内方をもたれても」
 2 行為や言葉などの大げさなさま。誇大。*日葡辞書「Guisanni(ギョウサンニ)ユウ」*雑俳・川傍柳‐五「ぎゃうさんなものは傾城の他出なり」
U  〔副〕
 はなはだしく。はなはだ多く。*咄・軽口曲手鞠‐二「ぎゃうさんふるき下帯」   国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「よーさん」と言う人もいます。この「国語大辞典(新装版)」というヤツは、簡単なことをよけいに難しく説明しているような気がしますが、要するに「たくさん」とか「いっぱい」ということです。

【例】
「ぎょぉさんあるやん」

「ぎょぉさん」は「たくさん」に置きかえられますが、「たくさん」は「ぎょぉさん」に置きかえられない場合があります。
充分だという意味で「もうたくさんだ」と言いますが「もうぎょぉさんや」とは言いません。





第8回  【どない】

 
辞書には
『〔形動〕(「どないな」の形で連体詞的に、「どないに」また単独の形で副詞的に用いられる)どのよう。どんな。*滑・浮世風呂‐二「上の鰻(うなぎ)といふたらまあ、どないなもんぢゃい」   国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

よく使われるのは「どないしょー」(どうしよう)とか「どないしたん?」(どうしたの?)です。

【例】
「どないしたん?」「どないもこないもあらへん」

年配の人は「どないなとせぇ」とか「どないぞならへんか」とかよく言いますが、若者はあまりこう言う言い方はしません。
「どないでもせぇ」とか「どないかならへんか」という言い方をするようです。
「どないやっちゅーねん」(いったいどうしたというのだ)とか「どないせぇゆーねん」(どうしろというのだ)いう言い方もよく使われます。




第7回  【しょぉもない】

 
辞書には
『(「しよう」が「しょう」と発音され、「性」の字を当てることもある) 1 たわいもない。ばかばかしい。わけもない。*浄・妹背山婦女庭訓‐二「性(シャウ)もない子供のいふ事、取り上げて下さりますな」
2 つまらない。くだらない。  国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「しょぉむない」と発音されることもあるようです。私は「しょぉもない」と発音します。アクセントは「も」にあります。

【例】
「何しょぉもないこと言うてんねん」

「しょぉもない」ことばかりする人を「しょぉもないことしい」と言います。
私の場合、最初から「しょぉもない」ことをしてやろうというつもりは全くなく、どういう訳か結果的に「しょぉもないこと」になってしまうのですが、「しょぉもないことしい」と言われても仕方がないのかもしれません。




第6回  【いちびる】

 
辞書には
『〔自ラ四〕できもしないのに、りきんでする。また、調子にのってふざける。*随・癇癖談‐上「むかし人はかくいちびりたるわれがしこをなん力みあひける  国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

調子にのってふざけるというよりも調子にのってはしゃぐと言ったほうが近いかも知れません。

【例】
「おまえ何いちびってんねん」

名詞は「いちびり」です。「び」にアクセントが来ます。
関西人には「いちびり」が多いような気がします。大人の場合は一種のサービス精神でしょうが、子どもの「いちびり」は天性のものでしょうか。それとも関西人の子どもは小さい頃からサービス精神が旺盛なのでしょうか。
多分、吉本新喜劇の影響なども大きいのではないかと思われます。




第5回  【ど】

 
辞書には
『〔接頭〕1 名詞・形容詞・形容動詞、時には動詞の上にも付いて、ののしる気持をこめる。近世以来の上方の俗語で、現在も関西方面を主として用いられている。「ど根性」「どしぶとい」「どあつかましい」など。どう。
2 名詞や形容詞の上に付いて、まさにそれに相当する意であることを強調する俗語。「ど真ん中」「どぎつい」など。 国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「ど真ん中」のことを東京弁では本来「まん真ん中」と言うそうですが、今では「ど真ん中」と言うほうが一般的なようです。

【例】
「♪行くが〜、男の〜、ど根性」(テレビアニメ「巨人の星」の主題歌から)

この「ど」は喧嘩をするときに罵倒する言葉として非常に便利な接頭語です。
「このどあほ。どたま(頭)かち割るぞ」
東京弁で「このバカ。頭割るぞ」と言われても全然迫力がなく、怖くもなんともありません。
喧嘩には関西弁が有利だと思いますが、広島弁なんかもちょっと怖いですね。




第4回  【ほんま】

 
辞書には
『(形動)本当であること。真実。*浮・元禄大平記‐五「馴染を重ぬるにつけては、本間(ホンマ)の心中をたて」 国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「ほんま」と言う言葉が口癖になっている人もいるほど、関西ではよく聞く言葉です。
昔「ボインの歌」で一斉を風靡した月亭可朝が「ほんまにほんま、いやほんまでっせ」などとよくこの言葉を使っていました。

【例】
「えー。ほんまかいなぁ」

「うっそー」と言われると何かすべて否定されているような感じがしますので、私は「ほんまー」と言う言葉のほうが好きですが、関西では「うっそー」のあとにわざわざ丁寧に「ほんまー」も付けて言うひとがいます。
「うっそー、ほんまー」
ちなみに「うっそー」は関西弁では「そ」にアクセントが来ます。





第3回  【いらち】

 
辞書には
『(形動)(動詞「いらつ」の名詞化)落ち着きがなく、あわただしいこと。せっかち。また、そういう人。*浮・本朝二十不孝‐五「早急(イラチ)の久左衛門」 国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

せかせかして、一つのことを落ちついてできない人のことですね。大阪人は世界一歩く速度が速いのだそうです。「いらち」と言うのは大阪人(多分神戸人も)の性格を表す言葉かもしれません。

【例】
「ちょっと待ちぃな。いらちなやっちゃなぁ」

私もかなり「いらち」な性格だと思います。たとえばカップラーメンを食べるときお湯を入れて3分待つことができません。30秒ぐらいでもう我慢ができず食べ始めてしまいます。別に餓えているというわけではないのですがおとなしくじっと待っているという行為ができないのです。
カップ麺は固くてバリバリしているほうが美味しいのだと自分に言い聞かせています。




第2回  【あかん】

 
辞書には
『〔連語〕(「らち(埒)があかぬ」の上を略した表現「あかぬ」から)物事がうまくいかない。効果がない。むだである。だめである。あかぬ。*浄・祇園祭礼信仰記‐四「あかんあかん、何ぼいうても次風呂はならぬ」 国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っています。

「だめだ」と言われると何もかも全て否定されているようなニュアンスがありますが、「あかん」と言う言葉には何か余裕さえ感じられます。

【例】
「あかんあかん。そんなことしたらあかんやろ」

「あかんたれ」と言う言葉があります。共通語では「駄目な奴」とか「弱虫」ぐらいに相当しますが、もうすこし軽い意味合いで使います。
実際「駄目な奴」と面と向かって言われるともう立ち直れませんが、「あかんたれ」と言われても「わしもあかんたれやけど、おまえも貧乏たれやんか」ぐらいは言い返せます。





第1回  【ちゃう】

 
辞書には
『〔連語〕(助詞「て」に動詞「しまう」の付いた「てしまう」が「ちまう」を経て変化したもの)東京方言などのくだけた言い方。動作の完了、実現する意を表す。「行っちゃう」「来ちゃった」 国語大辞典(新装版)小学館 1988』
と載っていますが、もちろんここで言う「ちゃう」は「違う」の「ちゃう」です。

強めて言うときには「ちゃうちゃう」と重ねて言いますが、それほど強い否定の意味はありません。

【例】
「ちゃうちゃう。それはちゃうんちゃう?」

共通語では「違うのと違いますか」とはあまり言いませんね。
普通は「違うんじゃないですか」と言うようですが、関西弁で「ちゃうやないですか」というとかなり強い否定に聞こえます。
「ちゃうんちゃいますか」というのが普通の言い方ですね。




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